この病院の待合室にある椅子はどれも固くて座り心地が悪い。そんな薄暗い部屋の中で、本村節子さん(52才)は自分の名前が呼ばれるのをじっと待っていました。「この病院に通い始めてもう7ヶ月くらいになるだろうか・・・」彼女の汎発性脱毛症は一向に治る気配がなかったのです。

汎発性脱毛症とは、頭髪はおろか、眉毛、まつ毛、鼻毛など、全身の体毛が一本も残らず抜けてしまう病気です。節子さんは眠っているとき以外のほとんどの時間を、頭がすっぽりと入る大きなニット帽を深々とかぶって過ごしていました。

それでも家の外を歩けば、周りの人たちからの容赦ない視線が注がれてきます。なので彼女はいつの間にか顔を伏せて早歩きをするのが癖になってしまいました。近所では「本村さんの奥さん、末期ガンらしいわよ」という噂まで広まっていました。

あなたは想像できるでしょうか?

まだ52才の女性にとって、頭髪が一本も残らず抜け落ちてしまう苦しみ、悲しみ、絶望感、無力感、もはや女性としての人生を何か大きな存在に力ずくで奪われたような、そんな終末を痛烈に感じたに違いありません。

ある日、節子さんのいとこが心配して彼女の家を訪れてきました。「どうなの?最近、病気の方は・・・」節子さんは深々と被っていたニット帽に手をかけてゆっくりと脱ぎ、テーブルの隅に置いたまま無言でその質問に応えました。

彼女のいとこは唇をギュッとつぐみ、少しだけ背筋を伸ばして言いました。「実はね、今日は節っちゃんをある場所に連れて行きたいの」

この日から、節子さんの運命をガラリと変えてしまう奇跡の物語が始まったのでした。

頭髪が一本も残らず抜け落ち、
病院でも治せなかった汎発性脱毛症の彼女を、
どのようにしてわずか1年4ヶ月でフサフサにしたのか?

今、節子さんには新しい悩みがあります。それは、毎朝のように鏡の中の自分を見ながら「今日はどんな髪型にしようかしら?」という悩みです。ツヤのある豊かな黒髪をどのようにセットしようか、オシャレに目覚めた女の子のように毎朝ウキウキしながら頭を悩ませているそうです。

かつては自分の運命を呪ったこともありました、自分を生んだ母親にひどい言葉をぶつけたこともありました。世間の血の通わない同情という偽善のせいで人間嫌いにもなりました。お風呂の湯船に顔を沈めて泣いたことも、このまま浮かばなければ楽になれると何度頭をよぎったことか、数えればきりがありません。

彼女が手に入れたものは頭髪ではありません。女性としての前向きな生き方です。自信を持って力強く命を燃やし続ける人生そのものを取り戻したのです。

あの日、

彼女のいとこが節子さんを連れて行った場所とは、東京の山の手にある小さな美容室でした。たった一人でこの美容室を切り盛りしている美容師の田辺美由紀さんは10年ほど前にこのお店をオープンさせたのですが、当初は挫折の連続だったと言います。

来店していただいたお客様のリピート率はゼロ、満足な施術もできずにほとんどすべてのお客様を失客させていたのです。なぜなら田辺さんには10年のブランクがあったのです。10年ぶりに美容師としてお店をスタートさせたために、まだまだ技術力も満足のいくレベルを取り戻せていなかったのです。

それが今では一年先まで予約のとれない繁盛店です。今すぐ予約をしても施術を受けられるのは一年先です。一年分のお客様が行列を作って待ち続けているのです。

汎発性脱毛症だった節子さんの頭髪を取り戻し、一年先まで予約のとれない繁盛店にするために、田辺さんはいったい何をしてきたのでしょうか?お客様に信頼され、求められ、感謝されるお店を作るにはいったいどうしたらいいのでしょうか?

その秘密は『3つの戦略』です。

いっさい宣伝しなくてもお客様が全国から我先にと集まってきます。どんなに遠くても、どんなに料金が高くても、どんなに待たされても、「この悩みを解決してくれるなら!」と、熱心なお客様が行列を作るようになります。

アルバート・アインシュタインは相対性理論の研究中に「この問題をどのように考えたらいいか、その考え方を見つけなければならない」ということを常に意識していたそうです。最高の答えを得るためには、最高の質問が必要です。最高の質問を作るためには、最高の考え方が必要なのです。

考え方を持たずに問題は解決できません

これからご紹介する『3つの戦略』は、競争を生き残る考え方であり、美容室を繁盛させる考え方であり、あなただけの独自の価値を世の中に提供し続けるための考え方です。

お客様にとってオンリーワンになるということは、つまりライバルのいないナンバーワンになるということです。差別化するのではなく、独自化するのでいっさいのライバルがいなくなります。しかも、ライバルがいないのにお客様が次から次へとやってきます。事実、田辺さんのお店は一年先まで予約でいっぱいです。

戦略【1】 絞る

ビジネスは「誰に」「何を」「どのように」提供するか?という3つの要素に集約されます。この3つの円が重なり合っているところがあなたの戦場です。当然、この重なり合っている面積が広ければ、それだけライバルの数も増えてきます。

まずはあなたのお店が「誰に」「何を」「どのように」提供しているのか明確にしましょう。より具体的に、すべてリストアップします。(ちなみに想像するのではなく紙に書いてください。書き出すことで脳内は真空になり、新しい情報を引き寄せます。)

すべて書きだしたら、あなたと同じ戦場(3つの円が重なり合うエリア)にいるライバルが誰なのか、どれほどいるのかをチェックしましょう。同業者とは限りません。(例えば、歌手の「きゃりーぱみゅぱみゅ」さんと米大統領候補の「ドナルド・トランプ」氏は、どちらも退屈なアメリカ人の乾いた日常を満たすライバル同士だと言えるかもしれません。)

そして、あなたが独自化できる可能性のある戦場を見つけましょう。ここで多くの人が侵す間違いをひとつご紹介しておきます。それはブルーオーシャンを目指すあまりに、無人島にコンビニをオープンさせてしまうといったケースです。

そうならないために重要なポイントがあります。それは「誰を救いたいのか?」ということです。悩みにフォーカスするのです。悩みは、深さも、状況も、緊急度も人それぞれです。あなたはそれらを正確に診断して、最適な方法で救うのです。

セールスマンではなく、ドクターに。

ドクターになれれば、売り込まなくても勝手に売れていき、そして感謝されます。「買ってください」から「売ってください」に変わります。

極端な例ですが、あなたが10万人に1人の難病にかかってしまい、放置すれば6ヶ月も生きることができず、それを治療できる専門医が日本に1人しかいないとしたら?しかしその病院は、、、

  • 自宅から遠い
  • 治療費が高い
  • 馴染みの先生ではない
  • 有名ではない
  • 見た目が汚い
  • 治療まで3ヶ月待ち

だったとします。でも、あなたは絶対にこの病院に行きますよね?今すぐ震える手で電話機のプッシュボタンを押して何が何でも予約を取りますよね?どんなに遠くても、どんなに高くても、どんなに待たされてもきっと行くはずです。

10万人のうち9万9999人には役に立つことができなくても、10万人のうちのたった1人のために最善最高の価値を提供して救うことができるなら、ライバルのいない独自性を持ち、売り込まなくても勝手に売れていく繁盛店のできあがりです。

田辺さんは徹底的に育毛に特化しました。

もしかするとこれを聞いてあなたはこのように思われたかもしれません。「育毛を売りにしている競合や商品は他にもたくさんいますよ?ライバルだらけじゃないですか?」と。しかし田辺さんの場合、純度が違います。猛勉強、徹底研究、粉骨砕身、不撓不屈、そのサイクルを間近で見ればじんわりと額に汗をかいてくるほどの高純度で特化したのです。

純度を高める、それが次の戦略です。

戦略【2】 極める

「覚えるは一瞬、極めるは一生」とはポーカーでよく使われる言葉ですが、何事においても極めるということは、一生をかけなければならないほどゴールの遠い長い旅路になります。

日本でも「実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」という言葉があるように、誰からも極めたと評価される一流の人物ですら、謙虚に、ひたむきに、なお一層コツコツと道を極めるための努力を惜しみません。

著名なデザイナーである原研哉さんは「デザインの質は、思考の総量で決まる」と言っています。これはデザイン業界だけに通用する言葉ではなく、物事を極めようとするすべての人に当てはまるのではないでしょうか。

思考の総量=深さ×時間

世紀の発明を成し遂げるような天才はその物事について、目が覚めた瞬間から眠りにつくまで、というよりむしろ寝ている間も思考し続けています。トーマス・エジソンはコインを片手に握って仮眠をとっていたといいます。眠りが深くなりそうになると手のひらのコインが床に落ちて音がする、そして実験の再開というわけです。

戦略【1】で悩みにフォーカス(特化)しました。その悩みを抱えている人についてどれだけ思考することができたかによって、その人を救えるかどうかが決まってきます。「どうすればこの人を救ってあげられるだろうか?」24時間×365日×何年も思考し続けることで、思考の総量に比例してやるべきことが見つかります

やるべきことが見つかればあとは行動あるのみです。行動することによって結果が生まれ、そしてまた思考する。行動と思考の両輪をフル回転させることで、いつしか誰にもマネできない独自の価値が磨き上げられていることでしょう。

極めるということは、捨てることでもあります。

1つを選択するという決断は、その1つ以外を選択しないという決断です。決断という字が「決めて」「断つ」と書くように、10万人に1人の例でいえば9万9999人を捨てる(断つ)ということになります。

「他をすべて捨てるなんてムリだ」と思われましたか?心配はいりません。地面に穴を掘るところを想像してください。スコップを片手にひたすら一点集中、ココだと決めた場所を下へ下へと深く掘り続けます。すると何が起きるかというと、結果的にその穴の直径もどんどん広がっていくのです

つまり一点を極めれば極めるほど、比例して価値の体積が増大します。だからこそ、まずは一点集中、特定の人の特定の悩みにフォーカスして最高の救済を提供できるように思考と行動を繰り返すのです。

戦略【3】 継続する

思想家の岡倉天心は「変化こそ唯一の永遠である」と言いました。仏教でいうところの諸行無常も同じ考えに基づいています。だからこそ変化し続ける流れの中で不変の軸を持って行動し続けること、つまり継続するということは極めて難しい苦行なのです。

だからこそ価値がある。

継続することの反対は「継続しない」ということ、つまり「あきらめる」ということです。成果が出ない、努力が報われない、評価されない、進歩しないという状況が続けば、誰でもあきらめてしまいたくなるでしょう。

しかし「あきらめる」という行為は、自ら失敗を確定することでもあります。数多くの名言を残したパナソニック創業者の松下幸之助さんは「失敗の原因は、成功する前にあきらめてしまうことだ」という言葉を残しています。つまり、あきらめない限り失敗はありません

すべては成功の途中

冒頭でご紹介した節子さんもあきらめませんでした。美容室を経営されている田辺さんもあきらめませんでした。だからこそ2人は出会い、望む未来を作ることができたのです。髪を短くすることが結果ではなく、髪の色を変えるのが結果はなく、髪型を変えるのが結果ではなく、もちろん育毛することも結果ではありません。

その先にある本当の結果とは?

さあ、思考の総量を引き上げる時間です。あなたを必要としている人がいます。あなただけにしか救えない人がいます。その人は絶望の中でもあきらめずに戦っています。その人はあなたに向かって必死に手を差し出しています。いつかあなたがその手を強く握り、希望に満ちた世界に引き上げてくれると信じているのです。

(※登場する人物名や固有名詞は架空の設定によるものです。)