繁盛店をのぞいてみると美容師さんたちはいつも明るい表情を浮かべていて、心地良い熱気の中でイキイキと活躍されています。店内はお客様の弾む声で満たされており、まるで「幸せ製造工場」といった雰囲気です。

一方、商店街や住宅の一角でよく見かける光景があります。

先月まで営業されていたはずの美容室のシャッターが下ろされたままになっていて、いつまでたっても営業を始める雰囲気もなく、忘れたころに「テナント募集」と書かれたペラペラの紙が冷たいシャッターに貼り付けられている・・・そんな光景です。

繁盛している美容室と廃業した美容室にはどんな違いがあったのでしょうか?

きっと廃業を余儀なくされたオーナーや美容師さんたちも、繁盛店に負けないくらい一生懸命に働いていたに違いありません。そうであったにもかかわらず、オーナーは大きな借金を抱え、美容師さんは職を奪われ、いくらかのお客様を失望させてしまったことには何かしらの理由があったはずです。

時代が変わり、環境が変わり、人々のニーズが変わり、そんな中でも生き抜いていくためにはいったい何が必要なのでしょうか?時代がいくら移り変わっても人々から求められ、必要とされ、愛される美容室になるためには何をすればいいのでしょうか?

小さくても永久に繁盛する美容室を作るために、これから4つのワークをご提案します。

1、お客様との信頼関係を構築する

まず、お客様は変化を望んでいるということです。美容室へ出かける前の現在の自分と、美容室から帰ってきた未来の自分に『何かしら』の変化を求めています。

ただし注意してください。

そのような変化を提供するだけの美容室なら世の中にあふれるほどあります。そういったどこにでもある美容室はいまだに椅子取りゲームのような潰し合いに鼻息荒く挑んでいるのです。この段階でいくらお店の独自性を打ち出そうとしたところで、穴の開いたバケツを持って火事場に駆けつけるようなものです。

烈火のごとく燃え上がる最前線で生き残るために、まず最初にやるべきことはバケツの穴をふさぐこと、つまり既存のお客様にあなたのお店の熱烈なファンになっていただくことです。

だからこそ、お客様の望む変化を提供するとともに信頼を築き上げる必要があるわけです。しかし、お客様の信頼を勝ち取るためには何をすればいいのでしょうか?人はどんなときに相手を信頼するのでしょうか?

まずはお客様がご来店いただいた動機にあたる問題、悩み、フラストレーションについて深く理解した上で、それを共有する必要があります。

お客様の問題についてインタビューする際にどのような言葉をかけられているでしょうか?常連のお客様ならインタビューするまでもなく把握されていると思いますが、初めてご来店いただいたお客様であれば何を望まれているのか、ゆっくりと紐解いていく必要があります。

例えばお客様と会話を始めて間もなく「こんな悩みはありませんか?」というキャッチフレーズを使う美容師さんを見かけますが、なぜ最初にこのような質問をすることがダメな例なのか知っていますか?

それは、最初の段階でこのような質問をするとお客様の中に「初対面のあなたに何が分かるの?」という疑問(反感)を生むことになります。あなたがどれほどレベルの高いプロフェッショナルであったとしても、初めてご来店いただいたお客様からすれば無数にいる美容師の中の一人に過ぎません。

ですから、いきなり「あなたはこんなことでお悩みですよね?」といった知ったかぶりをされると、あなたにはこんなラベルが貼り付けられてしまいます。
「外見や偏見でモノを言う人」
「流れ作業で対応しているだけの人」
「売込み臭のキツイ人」
このような第一印象がついてしまうと、その後の会話のすべてが信頼性を失ってしまいます。

物事には順序があるように、問題の発生にも時系列に沿った順序があります。お客様の抱えている問題を深く理解して共有するためには、その問題がお客様の生活の中の、

  • どんな環境で
  • 何をきっかけに
  • どんな現象が起きて
  • どんな感情になり
  • なぜそれを取り去りたいのか
  • それをどのように記憶しているのか

など、まるで一緒にその場面を体験しているかのようなリアリティをもって順序良く、しかも自然な流れでインタビューしていかなければなりません。その一瞬のシーンに触れることができれば、お客様の中にその時の感情がフラッシュバックして、あなたの言葉に積極的に耳を傾けてくれるようになるでしょう。

そして、お客様の中にある敏感な心の琴線に触れたあとでそっと問題の解決案を差し上げるのです。するとお客様は「この人は問題についてちゃんと理解している。そして私の状況も理解してくれている。しかもこの人はこの問題の解決方法を知っているし、さらに私の問題を解決してくれようとしている」と感じます。

まさにその時(!)あなたはお客様を心酔させるカリスマ性を持った状態になり、見事お客様の問題を解決し、さらに期待値を上回る未来を提供することで、目の前にいるお客様をファンにすることができるのです。

もちろんファンになってくれたお客様はあなたにとっても特別な存在(VIP)です。VIPであるお客様にはVIPとしての対応をして差し上げましょう。

人は誰でも特別扱いされると気分が高揚します。ましてや信頼しているあなたからVIP扱いされたお客様は

  • 自分は大切にされている
  • 自分は必要とされている
  • 自分は特別な存在なんだ

と感じることができ、さらにこのような感情を「何度でも受け取りたい」「絶対に手放したくない」という特殊な欲求(=満たされた自尊心)を持つようになります。

自尊心は強力です。

傷つければ殺し合いの歴史を生み、満たされれば永遠の愛を誓います。人間にとって自尊心とは命と同じくらい大切なものですから、VIPなお客様には徹底的に自尊心を満たしていただきましょう。そのためには何ができるのか?

特別なお客様にだけに贈られる誕生日プレゼントでしょうか?特別なお客様だけが参加できるパーティでしょうか?年間を通して無条件に優先される予約権でしょうか?美容室という枠を超えて人として何か特別にお役に立てることはないでしょうか?考えればキリがないほどアイデアは出てくるはずです。

ビジネスとは信頼関係を築くための手段でしかないのです。

2、お客様がお客様を連れてくる

チラシや広告、キャンペーンのご案内はすでに世の中に溢れているため、それを受け取った人は自動的に「売込み」だと判断して脳内からその情報を破棄してしまいます。これは網様体賦活系(もうようたいふかつけい)という脳に備わっている高度なフィルター機能のしわざです。

例えば、あなたはこの3日間で何台の黄色い自動車とすれ違ったでしょうか?

そこそこ目立つ色だと思いますが覚えていらっしゃいますか?1台でしょうか?5台くらいはあったでしょうか?実際には30台くらいすれ違っていたかもしれませんね。視界に入っているのにそれでも覚えていないのと同じように、重要ではないと無意識に判断された情報(つまりお客様にとっての売込み情報のようなもの)は脳内に入ることすらできずに即座に破棄されてしまうのです。

3カラットのダイヤモンドを無料でプレゼントすると書かれたチラシがポストに入っていても、ほとんどの人は目を細めて小さくため息をついてからクシャクシャに丸めて捨ててしまうでしょう。どんなにすばらしい提案があったとしてもお客様の記憶にすら残りません。(そのチラシを見たことさえ忘れてしまいます。)

それでは売込み情報が氾濫している現代で、お客様はいったい何を信じるのでしょうか?また、あなたのメッセージを信頼できる情報として受け取ってもらうためにはどうすればいいのでしょうか?その答えはシンプルです。お客様が信じる情報とは、、、

信じている人が発信した情報です。

例えば、お医者さん。あなたは処方箋で出されたカプセルの中身を確認したことがありますか?錠剤の成分を第三者機関で検査してもらったことがありますか?注射器に入っている液体は何か?また医療技術を確認してから血管に針を刺すことを許可していますか?そんなことをしている人はいないでしょうね。なぜなら、お医者さんを信じているからです。

特に、両親、兄弟姉妹、親戚、親友、夫婦、恋人、恩師など、長い付き合いがあってすでに信頼している人の言うことであれば、誰だって何ら疑うことなく受け入れてしまうものです。

例えば、街中でどこの馬の骨とも分からない人から声をかけられ「この商品はオススメだよ」と言われても舌打ちをして無視することでしょう。しかし信頼している人があなたのためを思って「この商品はオススメだよ」と情報をくれたときには「教えてくれてありがとう、試してみるね!」となるわけです。

そのためにも、まずは既存のお客様にファンになっていただくことが必要だったのです。既存のお客様に「すごくいい美容室があるから紹介してあげる」と友人知人を誘っていただければ、その言葉はお金では買えないほどの強い影響力を持ち、その信頼できる情報を受け取った人を自発的に行動させることができるのです。

ご紹介によって来店いただいた新しいお客様は、すでにあなたのお店を(既存のお客様のクチコミによって)信頼してくれています。不安を感じることなく期待感をもってご来店いただいているため、その方と信頼関係を築くことも容易になるでしょう。

チラシや広告で値引きをエサにしてご来店いただいたお客様とはまるで温度が違うことにお気づきでしょうか?夜中の街灯に群がる昆虫たちは、朝が来て灯りが消えた途端にどこかへ消えていってしまうものです。

3、正当に受け取る

人間には【返報性の原理】」というものが存在します。何千年も前に人間が協力し合って生きていく社会を形成した時からこの深層心理は培われてきました。

例えば、「受けた恩は必ず返さなければならない」という価値観は、決して親から教育を受けたからそう思うようになったのではなく、自分以外の人たちと手を取り合って協力しなければ生きていけない環境の中で進化してきたからこそ身に付いた本能です。

困っている人がいたら助けたい、自分が困っているときには助けてほしい、みんなで手と手を取り合って生きていきたいという本能は「返報性の原理」として24時間365日すべての人の脳で機能しています。

つまり、自分にとって大きな価値を受け取った時には自動的に「何かお返しをしなければ」という心理が生まれます。わずかな人たちはエゴが邪魔をしてその心理にすぐには気付けないかもしれませんが、実際には本能なのですべての人の心の底に「お返しをしたい」という感情はすでに生まれており、それに気付くのは時間の問題です。

以前、小さな美容室でありながら予約の絶えない顧客単価2万円の繁盛店をご紹介しました。この美容室は決してトリックを使っているわけではありません。大量の広告費を投じているわけでも、強力なセールスをかけているわけでもありません。ましてや洗脳して高額な壺を販売しているわけでもありません。

返報性の原理を使っています。

ご来店いただいたお客様に高い価値を提供し、それに見合う金額を正当に受け取っているだけです。ほとんどのお客様はリピーターですので、お客様にとってみれば1回あたり2万円という金額設定は妥当であり、むしろ受け取る価値に比べれば安いとすら感じておられるでしょう。(だからこそ何度もご来店いただけるわけです。)

RIZAP(ライザップ)というトレーニングジムはたった2ヶ月でおよそ30万円という高額メニューにもかかわらず女性に大人気です。つまりこのサービスに申し込む女性にとっては30万円という金銭的価値よりも、ライザップで受け取れる価値(=脂肪のない引き締まった体型)の方がより価値が高いと判断しているのです。(自分自身で努力しなければならないにも関わらず。)

金銭的価値 < 受け取る価値

お金とは価値と価値を交換する道具でしかありません。お客様の手に入れたい未来を実現するという価値を提供できれば、当然それに見合っただけのお金を道具として受け取ることになるのは至って自然なことです。

なぜなら価値を交換することは、人と人が協力し合って生きていく社会の原理原則に他ならないからです。

4、ライフスタイルとビジョン

これまでの3つのワークを実践するだけでもライバルを大きく突き放して置き去りにすることができるでしょう。すでに特別な美容室になっていることは間違いありません。

お客様との信頼を構築して問題の理解と解決によってファンになっていただき、お客様がお客様を連れてきていただけるバイラルマーケティング(口コミによる伝染的集客)が機能し、高い価値の提供による高い顧客単価が実現されるだけでも、向こう10年はビクともしない経営が可能になっているはずです。

そしてこれが最後のワークです。ここでは美容室のポジショニングによって地域社会のランドマークになる方法をご紹介します。ポジショニングとは、あなたの美容室が社会(地域の人々)からどのように認知されるかを意図的にコントロールするということです。

何度も指摘するように美容室は何十年も前から乱立し続けて飽和状態になり、今や誰に聞いても「美容室なんてどこも同じでしょ?」という残念な常識が広がっています。お客様の頭の中で差別化されていない限り、その他大勢の美容室の中から選ばれることはありません。

そんな状況の中で生き残っていくためには(お客様から選ばれ続けていくためには)非常識な美容室になる必要があります。つまり「美容室なんてどこも同じでしょ?」という残念な常識を壊した特別な存在になるということです。

そのためには、あなただけの言葉を使い、あなただけの手段を使い、あなたからしか受け取れない価値を構築することです。

例えば育毛に特化した美容室を目指すのであれば、地域の人々に「育毛と言えば○○美容室」と認識されるように、これまでの美容室に持たれていた残念な常識を壊し、もはや美容室という枠組みさえ乗り越え、人々の認識の一部を完全に占領してしまうのです。

そのためには、育毛に関して誰にも負けない知識を持ち、育毛に関して誰にも負けない技術を追求し、育毛に関して誰にも負けない情熱を燃やし、育毛に関して絶えず有益な情報を地域のランドマークとして発信し続けることです。

お客様に新しいライフスタイル(育毛によって問題解決された新しい未来の生活)を提供すること、そしてそれを実現することをあなたのお店のビジョンとして掲げ、ブレることなく貫き通していくのです。具体的には何をすべきでしょうか?

その前に、、、

あなたは応援する人の心理について考えたことがあるでしょうか?昨年からラグビー日本代表の活躍によってラグビーファンが増え、ファンは試合を見るために何度も会場へ足を運んでいます。ファンが選手たちのプレーを一生懸命に応援している姿がメディアで頻繁に取り上げられていますよね。

ファンの人たちはわざわざ仕事やプライベートを調整して予定を空け、ラグビー場まで時間と労力をかけて出向いていき、観戦するためのお金を払い、声が枯れるまで力の限り応援して、ゲームが終わると選手たちに「ありがとう」と感謝して涙を流しています。

なぜファンは献身的に応援するのでしょうか?脳内のミラーニューロンが機能しているのかもしれませんが、ここではもっと単純に考えて、きっとそれは頑張っているからだと思います。

私たちは頑張っている人を見過ごすことができません。一生懸命に頑張っている人を見ると無意識に心臓の奥の方からジワジワと、

  • どうかこの人の努力が報われますように
  • どうかこの人が成功しますように
  • どうかこの人が幸せになりますように

といった祈りが芽生えてきます。

あなたが美容室のビジョンを達成するために日々徹底的にこだわり続けている姿は、やがて多くの人の心を動かすことになるでしょう。頑張ることがストーリーを生み、ストーリーは共感を生み、共感は信頼を生み、そして信頼によって結ばれるのは、、、

絆(きずな)

お客様により良いライフスタイルを提供するという美容室のビジョンを達成するために、今からでもすぐに実行できることがあります。何だと思いますか?これを読み終わって深呼吸をして静かに目を閉じるだけですぐに実践できることです。

それは『決断する』こと。

決断とは、あなたの思考をたったひとつの場所に向けてピタリと固定することを意味します。起きている時も寝ている時もビジョンの達成に向けて思考し続けることで、あなたが望んでいる物事は次々と成し遂げられていきます。つまり、思考が運命を決めるのです。

ある偉人が次のような言葉を残しています。

思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから。(Mother Teresa)

それではどうぞ、決断する時がきました。