知識は学ぶもの、センスは磨くもの

もっともっとお客様に喜ばれる美容師になるために、日々勉強に尽きることのない情熱を注ぎ続けることで、どんどん目に見えて成長という甘い果実になって戻ってきます。

知識は勉強すればするほど積み上がって増えていき、技術は練習すればするほど上達していきます。職人の世界では10年でようやく1人前であるとか生涯かけても半人前であるとか、そんな厳しい精進の心を語る匠も少なくありません。毎日毎日コツコツと水滴が岩石に穴をあけるように弛まぬ努力を続けていらっしゃいます。

しかしセンスはどうでしょうか?

芸術家を目指している人の中で、頑張った分だけ世の中から評価されている人はほとんどいないでしょう。自分のセンスが世の中に認められてる恵まれた人たちは、海の水をスプーンすくうほどの人数しかおらず、そんな狭き門をくぐるにはズバ抜けて光るセンスが必要だと思われています。

しかし実際は、センスは十分にあるのにそれが相手になかなか伝わらないもどかしさを感じている人がほとんどです。多くの人がこれまで磨いてこられた素晴らしいセンスを持ちながら、オーディエンスやユーザーにその素晴らしさが理解されずに事実よりもはるかに低い評価に落ち着き、あきらめてしまっています。

ヘアスタイリングにもセンスが大きく関わっていることはお客様にも十分に理解されていることですが、それを実現できるのかどうか・・・そこがポイントなってくるでしょう。

十人十色の理想

デザインをしていくにあたって美的センスが大きく左右してきますが、あなたの美的センスがお客様の描く理想に沿っているかどうかはまったくの別の話です。最悪の場合、単なる価値観の押し付けになりかねません。

センスを言葉で表すことはできませんが、例えば洗練された大人っぽさの中に美しさを感じる人がいれば、まったく飾らないナチュラルなスタイルの中に美しさを感じる人もいます。美しさの定義がひとりひとり異なるように、どこにどのような価値観を持っているかをくみ取り、それを実現可能なセンスでなければ意味がありません。

サービスとは、美容室環境や接客、カウンセリングから施術やアフターケアなど、それぞれの点がまっすぐつながった線でなければいけません。ヘアスタイルをデザインするセンスはその直線上にあり、十人十色のお客様の理想を実現できる応用力が求められます。

目指すフォルムがお客様と共有できていないと、いくら素晴らしいスタイルをご提供できていても、「確かにこれもいいとは思うけど・・・」とお客様の中に声にならない不満というモヤモヤを残してしまいます。リンゴを買いに来たお客様にオレンジを売ってはいけません。

美しさの共通点

十人十色の価値観があることは疑いようのない事実ですが、不思議なことに人間には共通のバランス感覚が存在していて、そのバランスが保たれているフォルムに対して美しさや安心感を覚えるのです。つまり、センスとは別のアプローチでデザインのご提案ができるようになります。

黄金比はパルテノン神殿やピラミッドといった歴史的建造物、美術品の中に見出すことができるという。また、自然界にも現れ、植物の葉の並び方や巻き貝の中にも見付けることができるといった主張がある。これらの主張から、最も安定し美しい比率とされ、意図的に黄金比を意識して創作した芸術家も数多い。 (参照元:ウィキペディア)

身近なところでは名刺も黄金比に基づいた長方形で作られることが多いですし、あのiPhoneで有名なアップル社のロゴも黄金比に基づいてデザインされています。

もうひとつ白銀比という比率が存在します。これは大工の世界では「神の比率」と呼ばれており、法隆寺の五重の塔にも利用されています。身近なところではコピー用紙の中にもこの比率を見つけることができます。付け加えて「1:2」や「1:3」という比率も安定感を与えます。

このように人は知らず知らずのうちにあるバランスを美しいとか安定していると感じているのです。先ほどの引用文にもあるように、それは国内外を問わず時代を問わず存在し続けているバランスです。

現代のデザイナーも意識しているこの比率を、ヘアスタイルのフォルムに生かすことができます。すでにその理論を導入されている美容室様も多く、スタイルのご提案のひとつとして欠かせない要素になりつつあります。デザイニングにも活用できますし、ご提案もより具体性をもって行うことができます。

「いいですね!」

ヘアデザインによってお客様の印象は大きく変化します。大人っぽさや可愛らしさといった印象がほんの少しのバランスで創り上げられ、あなたの綿密なカウンセリング力に基づいた施術後のスタイルはお客様に大きな喜びをご提供できていると思います。

冒頭で職人のお話をしましたが、強面の頑固そうな男性が腕を組み「つべこべ言わずとも出来上がったものを見れば判る」といった気質の匠も多いのではないかと思います。その一方で、日本人は世界の中でも自己主張が下手な人種だと言われています。さらに日本人自身も強く自己主張する個性を嫌い、慎ましさに美意識を感じています。

しかしサービスとは「自分がどうあるか」ではなく「お客様がどうなれたか」の方が重要です。理想のヘアスタイルを手に入れたお客様の今ある喜びを共有して、もっともっと幸せな気持ちになっていただくことも必要なのです。

アピールという言葉にネガティブなイメージを持たれてしまうかもしれませんが、お客様はあなたの専門性に安心感を覚え、変化することで実証し、得られた新しいスタイルの喜びを分かち合うことがアピールにつながり、あなたの価値として築き上げられていくのです。