増え続けるニーズ

アベノミクス効果によって国内企業の株価は上がり、輸出企業は円安によって軒並み経常利益が大きく黒字化したり、TPP参加による影響を見据えた輸出強化が外交を通じて積極的に行われています。

すぐに国民ひとりひとりの手のひらにこの恩恵が届けられるのはまだ少し先に話になるかもしれませんが、100年に1度と言われた大不況に比べれば景気が好転しているのは明らかでしょう。これまでの不況下では、

物が売れない
 ↓
価格を下げる
 ↓
会社の利益が減る
 ↓
従業員の賃金が減る
 ↓
物を買わなくなる

というデフレに苦しめられた経営者も少なくありませんでしたが徐々に変化しつつあります。先日、マクドナルドでは限定で1000円バーガーを発売して長蛇の列ができました。そこには高いイベント性と、安いイメージの強いハンバーガーの常識を超えたインパクトがありました。またそれと同時に高品質な商品に高い金額を支払える購入者の下地があったことも事実です。

品質は後回しにしてとにかく安いものが正義だった不況時代から、品質重視へと少しずつシフトしてきているようです。

品質重視とは高級であるという意味だけではなく「私だけの特別なサービス」という精神的な満足も含みます。ユーザーに合わせたサービスの細分化もまた、これからの時代に求められてくるでしょう。

老舗の戦略

夕方のニュースでは、街に古くからある商店街が駅前の大型量販店の進出によりシャッター通りとなってしまったという報道が流れていました。量産による安価な商品など品揃えもよく活気のある大型店舗に人がどんどん流れていき、昔ながらの古びた商店街の小型店は閉店を余儀なくされています。

大型店舗は品揃えの良さでサービスの細分化を成功させているとも言えます。しかし一方では設備投資や人件費など利益重視にならざるを得ないために利益率の悪い商品は取り扱えずにいます。

とある昔ながらの商品街にある小型店はそこに着目し、大型店の取り扱わない回転の悪い商品、利益率の低い商品、それでも確実にニーズのある商品だけを取り扱うようにして生き残りに成功しています。

あるミシン店には売れそうにない旧型のミシンばかりが数点並べられていて、パッと見た感じではすぐにでもつぶれてしまいそうな暗いたたずまいなのですが、フタを開けてみれば主要メーカーではすでに廃盤になって修理してもらえない数十年前のミシンでも修理を請け負ってくれるためにとても繁盛しているとのことでした。これもまたサービスの細分化の一例でしょう。

ある小さな電気屋さんでは大型電化量販店に比べて2倍の価格設定で商品を販売しています。例えば大型量販店では19万円で手に入る薄型テレビがこの小さな電気屋さんでは40万円以上の値がつけられ、しかもお客様は「いい買い物をした」と喜んでこれを購入していくのです。

大型店のできないことをやる

これがこの電気屋さんの経営戦略です。かつて大型店の進出によって倒産間近にまで経営が落ち込んだ時に、ターゲットを地域の高齢者に絞り、このお客様の要求に徹底的に応えるという方針に大きく舵をきったのです。

そのくらいなら、どこでもやってるよ?

いいえ、この電気店の徹底ぶりはため息がでるほどです。ある日はお客様から「ウチの納屋にハチの巣ができて困ったのよ・・・」と電話があれば飛んでいってハチの巣を撤去する。ある日はお客様との雑談中に「明日は友人と温泉に泊まるからワンちゃんの散歩どうしよう・・・」という会話になれば喜んで翌日訪問してワンちゃんの散歩をする。地域の高齢者からすれば、電球一個の交換にだって駆けつけてくれる家族の一員なのです。

お客様のニーズはどんどん細分化されていきますが、大型店に負けない安定した経営戦略として成功しているこれらの小型店の実例に共通することは、「ニッチなニーズに特化した」ということです。

大型店をはじめとしてどこのお店でもできる値引きで勝負するのではなく、ニッチなニーズに特化させ、尖ったサービスを提供し続けることで安定した美容室経営が可能になります。

メニューが増えれば業務用商材の在庫が増える上に、すべての技術レベルを高水準に保てなくなり、結果的にお店全体のクオリティが低下してしまいます。たった1人で肉屋と八百屋と魚屋と洋服屋と喫茶店を切り盛りするようなものです。

流行に左右されない10年後を見据えたニーズを捉えて尖ったサービスを提供するためにメニューのダイエットが必要です。中途半端なサービスしか提供できないメニューが100種類あるよりも「このメニューならこのお店よね」と言われるオンリーワン美容室の方が圧倒的に強い経営体質を築けます。

流行?八方美人?いやいや、尖ってみない?