再来店率の異常値

お客様が数ある美容室の中からたったひとつを選択して繰り返しお越しいただけることはとてもありがたいことです。再来店は信頼の証明でもありますから、美容室側から考えても日頃のサービスがご満足いただけていると判断できます。

お客様の言葉となって現れる欲求と、言葉にならない奥底のニーズを汲み取ってサービスが提供され、帰り際の笑顔が物語るように再来店率が上昇します。

しかし、ある美容室様ではその再来店率が異常値を示しているのです。その数値は90%を超えるほどになっており、諸手を上げて万々歳と天を仰ぐにはどこか違和感があります。

なぜ高い再来店率に違和感があるのか?

この美容室様では高い再来店率が表しているように何度も足を運んでくださるありがたいお客様に恵まれており、90%以上の数値ですからほとんどが常連様と考えることができます。

しかし満足度の高いサービスが提供できていて、がっちりと固定客を掴むことができているにもかかわらず、売り上げがはほとんど伸びていないのです。

なぜ?

その致命的問題点の答えを明かせば、実は単純に新規客が定着していないだけだったのです。せっかくの優れた施術力を持ちながら再来店に結び付けることができていないのは、再来店に結びつくお客様の心の導線がどこかで途切れてしまっているのです。

新規のお客様の満足度を引き上げて再来店していただくためにはシステムが必要です。お客様の立場に立って必要なものを整理したチェックリストをもとにして丁寧な導線を引くことで、きっと再来店という信頼を手にすることができるでしょう。

このシステムは新規のお客様が初めてお店に足を踏み入れた瞬間からお見送りをするまでを時系列に並べて7段階に区分することができます。もし新規のお客様を再来店まで結びつけることができていないのなら、この7つのステップを完全に実行できていない可能性があります。

1、初心

お客様が美容室選びをする際、真っ先に頭に浮かぶ美容室が【前回のお店】です。
「あの時は○○だったなぁ、スタイルは△△な感じにしてもらって、あれから3ヶ月は□□だったし・・・」という風に美容室の印象を思い出したときに、高い満足感をまた得たいと感じていただければ再来店に結び付きます。

実は印象の60%を決定するのは第一印象だと言われています。新規のお客様にとってはこれまで来たことのなかった初めてのお店ですから、五感から入ってくるすべての情報がラベルとして貼り付けられるのです。

そんなお客様に最高の印象をプレゼントするために必要なことは、「このお客様を幸せにしたい」という初心です。その想いが立ち振る舞いや気配りに自然とにじみ出てきてお客様に「なんだか感じのいいお店ね・・・」と感じていただけるのです。

2、会話

初心をもってお客様の満足を創り上げるためにはリラックスしていただきながらニーズを汲み取らなければなりません。現在の髪の状態や今までのヘアケア方法、抱えている悩みだけでなく趣味やライフスタイルにまで話題を広げていきましょう。

また、雑談で盛り上がるだけに終わらずお客様の言葉にならない欲求を感じ取ることを意識して、日頃からその能力に磨きをかけておくことも必要です。会話はお客様とつながる重要なツールです。

3、分析

さりげない会話を続けながらもプロとしての視点で冷静にニーズにマッチするスタイルは何かを分析します。外観や髪質に現在のスタイルだけでなく、お客様の内面も考慮して判断します。

自分の価値観にとらわれることなく広い視野を持ち、得られる情報を細かく観察し、何が求められているのか?最高の結果とは何か?と自問自答しながら分析を進めていきます。

4、決定

分析から導き出された結果は提案のひとつに過ぎません。これまで蓄積された知識と経験から導き出された専門家のご提案としてお客様と相談をしていきます。二人三脚で話し合いながら答えを出す作業が同調や共感、安心と信頼を育んでいきます。

また、お客様の要望がすべてではありません。望んでいる未来をお客様自身が明確に認識できていなかったり、うまく表現できなかったりすることは頻繁にあります。だからこそ相談しながらひとつの答えを導き出す必要があり、またそのことによってより大きな満足感を創り出すことが可能になってきます。

5、説明

最高の結果を得るために最適な計画を時系列に沿って綿密に組み立て、それぞれの必要性と未来をお客様と共有しなければなりません。「プロに任せておけばいい」という傲慢な発想は今すぐ最短距離で行けるゴミ箱に捨ててきてください。

新規のお客様は慣れない空間に常に大なり小なり緊張と不安を抱えているものです。今からどのような施術をどんな理由で行うのかを分かりやすく丁寧にご説明することで、お客様の不安を軽減することができるとともに、決定された素敵な未来をイメージしていただくことができます。

6、施術

施術においてはすでに多くの経験を積まれ高いサービスをご提供できる状態にあることでしょう。日々施術力を上げるための努力が実を結ぶ時間です。手際の良い正確な作業がお客様に安心感を与えることでしょう。

また施術を行いながらもテクニカルトークを忘れてはいけません。テクニカルトークとは先ほどのご説明と同じように、これからどのような流れでどんな施術を行うのかをお伝えすると同時に商品や施術、サービスの価値を高めるトーク術です。お客様の満足度に大きく影響するトークを雑談だけで終わらせてしまうのは実にもったいないことです。

7、確認

施術の終了がサービスの終了ではありません。あなたの高い施術力で完成したスタイルについてお客様と変化の確認をします。初めてお店に見えられた時の過去から今現在、どれほど素晴らしく変化できたかを感情豊かに共感しあいましょう。

きれいになったお客様は満足感とともに誰かにちょっとだけ自慢したくなるでしょうし、誰かに褒めてもらいたいと思うでしょう。あなたがその最初の人になるのです。

また、これからお客様自身が最高のスタイルを維持していくためにもホームケアのアドバイスが必要です。最初の会話から得られたお客様のライフスタイルを考慮して、最適な方法を専門家としてお伝えしましょう。

主役はお客様

自分がお客様に対して何をしてあげられるかという発想は時には一人よがりな行動に変貌する危険性を含んでいます。お客様にとっては聞きなれない商品の話や舌を噛みそうな成分の話についてくどくどと話せば逆に印象を悪くしてしまいます。

自分が何を言いたいのかではなく、お客様が何を聞きたいのか?
自分が何をしてあげたいのかではなく、お客様が何をしてもらいたいのか?

矢印はあなたからお客様に向かっているのではなく、常にお客様からあなたに向かっていなければいけません。お客様の目線に限りなく近づくことができれば、自然とお客様のニーズが見えてきます。

美容室のサービスによって幸せになるのは、あなたよりもまず先にお客様なのです。