スタッフの育成や人間関係に頭を悩ませている美容室経営者は意外に多いものです。

人当たりも良く明るく元気なのが取り柄でも技術に対しての向上心がないスタッフや、一方ではカリスマ美容師へのあこがれが強いのか技術力ばかりに専心するあまり自分本位なコミュニケーションしかとれないスタッフ、さらにはもはや今日一日を何事もなく楽しく過ごしたいだけのベテランスタッフなど・・・。

十人十色、千差万別とはいいますが、美容師の数だけ個性がありますから、あなたがそれぞれのスタッフを感動創造美容室のチームとして束ねることはなかなか容易なことではありません。

魅力 vs 技術

数年前のこと、

弊社とお付き合いのある美容室様に初々しい2人の美容師が就職してまいりました。2人とも女性で年齢も同じ18歳、通信教育で資格をとり、晴れて同じ美容室でデビューを迎えたというわけです。

私が言うのも変ですが、2人とも本当に良い子で真面目、右も左も分からない頃から一生懸命健気に頑張る2人を見るたびに、どこか不思議とこちらが元気づけられているような、そんな清々しさを覚えたものです。

  • Aさんは持ち前の明るさと上手なトークで周りから慕われる魅力のある人気者タイプ
  • Bさんはお客様の要望に的確に応えることのできる高い技術力を磨いていく職人タイプ

タイプこそ違えど2人とも将来が期待できる新人だと
オーナー様もわくわくを抑えられない様子でした。

それから3年経った頃のこと、

初々しかった2人はすっかり仕事にも慣れ、自分の個性を生かしながらあの頃と変わらず頑張ってたのですがオーナー様から少し意外な言葉を耳にしました。

「Aさんは施術もうまくできないうちからどんどんお客様に打ち解けていって、仕事を任せられるようになってからは売上も伸びて順調そのものだった。ただ同期のBさんはなかなか売上も伸びずに苦労してたね。」

同じスタートラインから出発した2人の美容師は3年の間にまったく違う道を歩いてきたようです。Bさんにおいてはもともとの性格もあって技術力の向上に囚われるあまり、お客様との充実した時間を演出するコニュニケーション力が育っていないようでした。

私は小さくうなずいて少しだけ目線を下にやり、心の中で「技術が優れているBさんよりも、Aさんのようにおしゃべり上手でお客様を楽しませることができるスタッフの方が売上も伸びていくのか・・・」と考えているとオーナー様は、

「ただそれだけじゃないんだよ。最近ではAさんの売上も頭打ちでね・・・」

と続けたのでした。
どうやらAさんの場合はお客様との関係づくりはとても上手なようですが、提案から施術までの技術的な顧客満足を今ひとつ提供できていないようなのです。

オーナー様はこの行き詰った状況を打開するためにも何かしなければと苦慮しておられたのです。コミュニケーション力のあるAさんと技術力のあるBさん、2人もまたそれぞれの道半ばで自分の美容師としての在り方に頭を悩ませていたのでした。

ロックシンガーとワイングラス

アメリカのロックシンガー、ジェイミーバンデラ氏は道具や手を使わずに目の前のワイングラスを自分の生声だけで割るというパフォーマンスをテレビで披露していました。彼がやることと言えば、ひたすらグラスに向かって声を張り上げるだけなのですが、乾いた金属音とともに突然その瞬間はやってきます。

「パンッ!」

いくら彼がロックシンガーだからと言っても人間の声帯から出せる音量には限界がありますし、もし声の音量だけでグラスが割れるのであれば、マイクを使ったディナーショーのテーブルはガラスの破片だらけになっていることでしょう。

そのテレビ番組の出演者たちもこぞってワイングラスに向かって声を張り上げるのですがまったく割れる気配すらありません。額に血管を浮かべて真っ赤な顔をした芸人さんがフロアに転がり、それを見ている観覧客が拍手をして喜んでいます。

ワイングラスが割れる原理はいたってシンプルです。ワイングラスには素材と形状によって共鳴する周波数がありますので、その周波数(音程)と同じ声をグラスにぶつけることで共鳴が起こってグラスが振動し、その振動に耐えられなくなったときにグラスは割れるのです。

って、何の話?

これって実はスタッフとお客様の関係によく似ています。人間関係と言ってもいいかもしれませんが、相手の心にスッと入るのがとても上手な人にこれまでに会ったことがありませんか?初対面のはずだったのに知らず知らずのうちに心を開いてまるで親友のように語り合っている自分にびっくりします。

  • 相手の世界で話す
  • 相手の言葉で話す
  • 相手の空気で話す
  • 相手の温度で話す
  • 相手のことを話す

こうしているうちに相手の心は共鳴を起こし、振動を始めて増幅していくのです。Aさんの場合はお客様と共鳴を起こすコミュニケーション力が優れており、一緒にいるだけで楽しく充実した時間を自然と演出することができていたのです。

しかしロックシンガーの声が、清々しい朝に遠くから聞こえるスズメの声ほど小さかったらどうでしょうか?いつまでたってもワイングラスは割れませんよね。ワイングラスを割るためにはグラスの周波数に共鳴する力と、その共鳴した振動を最大化する力が必要なのです。Bさんの場合は結果を理想的なレベルにまで最大化する技術力を持っていました。

そして現在・・・
新人だった2人の美容師さんは今どうなったと思いますか?

あれから2人は共鳴するように刺激し合いながら、お互いの能力を最大化していったのです。Aさんは技術力を手に入れ、Bさんはコミュニケーション力を手に入れ、それに比例するように2人の売上も伸びています。

導く力

すばらしい成長を遂げたスタッフの事例を話してまいりましたが、実は相手に共感する力と結果を最大化する力はリーダーにこそ求められる能力です。十人十色、千差万別の個性を導いて感動創造美容室を構築するのがリーダーの役割です。

あなたの声はスタッフに響いていますか?

スタッフは機械ではありませんので電卓の数字を叩くように「1+1=2」とはなりません。その結果は「1」かもしれませんし、時には「5」かもしれません。アクセルを踏めば前へ進むかもしれませんし、後ろへ下がるかもしれないのです。

スタッフに売上目標ばかりではない「在り方」を伝えることで、高い山々に降り注いだ清らかな雨が川を流れて海へ出るように、自然な姿でより素晴らしい場所を目指すようになります。
「在り方」とは?
リーダーは戦わなければいけません。
「売り手良し、買い手良し、世間良し」
「お客良し、数字良し、スタッフ良し」
この両方の三方良しを実現するのは、あなたです。