がっかりした、二度と行くもんか!

陰でお客様にこんなことを言われていたらどんな気分ですか?
頭にきてイライラしますか?
もしくは悲しい気持ちでうつむいてしまいますか?

美容室に来ていただいた常連客のAさんはお会計をするために使い古したお財布を取り出しました。普段はおしゃべりが大好きな方で、いつもだったらあんなことやこんなことなど、次から次へと取り留めもなくお話をたくさんしてくれます。でも、そんなAさんがその日だけはなぜか暗かったのです。

帰り際に上目づかいをしながら奥歯にモノが挟まったようにモゴモゴと何かを言おうとしましたが、結局Aさんは何も言わずにため息をついて帰っていきました。「またお待ちしてまーす」と声をかけても、一方通行のままむなしく声は消えていき、二度とAさんがお店に来ることはありませんでした。

あなたはがっかりしたお客様の顔を具体的に想像することができるでしょうか?

どんな目つきをしていて、マユはどうなっていて、どんな口の形をしていて、どんな風に呼吸をしていて、どんな血色をしていますか?

怒り、悲しみ、退屈、冷たさ、その表情をしたお客様はもう二度とあなたのお店にくることはないでしょう。何も言わずに・・・。

なぜ選ばれるのか?

人は1日に2万回の選択をしています。意識的にしろ無意識にしろ、人は常に何かを基準にして目の前に起きたことに選択と決断を繰り返しながら生活しているのです。

つまり、お店に来ていただいているお客様もまた何かしらの選択を繰り返しながら、あなたのお店に辿り着いたということになります。

・価格でしょうか
・技術でしょうか
・店内の装飾でしょうか
・サービスでしょうか
・過去の体験でしょうか

取り上げればきりがないほどの選択要素があります。何せ人の脳は1日に2万回も選択できる能力をもっているのですから、「どこの美容室に行こうか」という単純な決断でさえ無数の検討と選択が行われています。

だからこそ『差別化』をしなければ生き残れないのです。

すべてに選ばれる理由がなければいけません。

なぜそのシャンプーなのでしょうか?なぜその洗浄方法なのでしょうか?なぜその会話なのでしょうか?なぜ・・・。お客様があなたのお店で触れるすべて、あなたのお店に関するものすべてに、選択していただける理由がなければ一生選んでいただくことはできません。

■簡単にできるトレーニングです。

あなたは自分のお店のお客様になりきって、お店で提供しているサービスのすべてを体験してみてください。そして五感から入ってくるすべての項目をノートに書き出してみるのです。

聞こえる音楽、香りや室温、座り心地や頭皮の感触、会話の内容、笑顔、気遣い、清潔感、段差、ポスター、照明、ありとあらゆる項目です。

5秒に1項目は何かを書かなければならないでしょう。忙しいですね。用意したノートはあっという間に真っ黒になってしまうでしょう。でもそれはあなたにとって宝物になります。大事にとっておいてください。

そしてトレーニングですが、1日で最もリラックスできる時間にそのノートを開いて自分に聞いてみるのです。

この項目は、
・他店と明確に差別化できているだろうか
・お客様が自店を選んでくれる理由になるだろうか
・お客様は満足を得られるだろうか

お客様の中で「あの店もこの店も同じ」という認識を持たれてしまうと、選択の候補にすらしてもらえません。

例えば缶コーヒーを買いたい人の前にまったく同じ自動販売機が2台並んでいたらどうでしょうか?この人はどちらの自動販売機で缶コーヒーを購入すると思いますか?実際この人はどちらかを選ぶというよりも「どっちでもいい」と思っていることでしょう。

あなたはどっちでもいい存在になりたいですか?

そんなことはありませんよね。であれば差別化です。他店にはない、自分のお店でしか手に入らない何かを用意しなければお客様に選択してもらうことはできません。

ジャングルの中で兵隊のような迷彩服を着たまま遭難してしまったら、誰にも発見されることなく猛獣の餌食になるか、孤独に耐えられずに気が狂ってしまうでしょう。どんなに遠くでも発見してもらうためには、ありふれた景色の中で目立たなければいけません。

【警告】

ただしひとつだけやってはいけない差別化があります。ほとんどの人が勘違いをしていて、これをやれば他店と差別化できて集客できると思い込んでいます。しかし結果的に再来店率が下がり、売上が下がり、継続的な集客にも失敗してしまう、そんな恐ろしく間違った差別化をしていることにほとんどの人が気付いていません。

その最もやってはいけない差別化とは・・・『値下げ』です。

スーパーのタイムセールに群がる奥様たちの姿を想像して我先に値下げに踏み切っている美容室オーナーは本質がまったく見えていません。お客様をバカにしすぎです。

価格とはお客様に提供できた価値の対価としていただく金銭ですから、それを値下げするということは自分で「私のお店には提供できる価値がありません」と宣言しているようなものです。

値下げをすれば一時的には集客できるかもしれません。缶コーヒーが値下げして70円で売っていたら、きっとそちらの自動販売機が選ばれるでしょう。でも、となりの自動販売機が60円に値下げしてきたらどうなるでしょうか?

お店を潰さないためにも
→コストダウンを迫られる
→人件費も削らなければいけない
→値下げによって数勝負になり、仕事は簡略化される
→利益率も低く、設備投資もできない
お店のクオリティはどんどん奈落の底まで落ちていくでしょう。

しかも、値段の安さに釣られて来店するお客様は、値段の安さがあなたのお店の魅力だと思っています。他店より値段が安くなければ、当然あなたのお店は選ばれることはないでしょう。

値下げとは外側の差別化であって、内側の差別化ではありません。金メッキがやがてはがれ、みずぼらしい姿があらわになるのは時間の問題です。

むしろ値上げすべきです。
メニューにある価格のすべてを値上げしましょう。

徹底的に価値の高いものを追及して提供するのです。
『高価値・高単価』がこれからの美容室に求められる在り方なんです。

「いやいや、ミナトさん。そんなことしたらお客様はどんどん逃げていっちゃうよ。あんたウチのお店を潰すつもり?」

そんな声があちこちから聞こえてきそうですね。いいでしょう、もう少し高価値・高単価について掘り下げてみましょう。

結局はコレができるかどうかで美容室の未来が決まります。できる美容室は次々とお客様が自然に集まってきて「ありがとう」と喜ばれながら繁盛店になり、できない美容室は誰からも振り向いてもらえずに「営業中」の札にクモの巣がかかってしまいます。

不景気とは幻想である

知っていましたか?実は、不景気という現実は存在していません。
集団心理が歪んで起きた「雰囲気」でしかないのです。

あなたは不景気でお金がないからと言って、
・食事の量を半分に減らしていますか?
・洗濯をしていない強烈に臭い下着を何ヶ月も履いていますか?
・節約をするために携帯電話を解約しましたか?
・電気・ガス・水道を止めて河川敷で生活していますか?

あなたの答えは『NO』です。

なぜ不景気なのにお金を使ってしまうのでしょうか?逆に「不況知らず」と言われる業種があるのも事実です。中には「お金がないからここいらで一発・・・」と言いながら馬券を握りしめている不思議な人もいます。

実は、人間には生まれながらにして様々な欲求が備わっています。

マズローの欲求5段階説が有名ですが、人はありとあらゆる欲求を解消するために1秒1秒を生きているんです。お金を使うのもそんな欲求を解消するための手段にすぎないのです。

いくら不景気だからと言っても、
人は生きていくために栄養のあるものを食べて(生理欲求)
社会というグループに所属するために清潔な服を着て(所属欲求)
夜には我が家のダイニングに明かりを灯して(安全欲求)
家族が集まり暖かい時間を楽しみます(愛情欲求)。

不景気だとメディアに洗脳された人たちは騒ぎ立てますが、必要なものに必要なお金を使うようになっただけのことなんですね。

美容室に来られるお客様も「あなたのお店で得られるもの」が必要だと感じれば、それにふさわしい必要なだけのお金を「ありがとう」と言いながら使ってくれます。

それでは、美容室に来られるお客様はどんな欲求を持っているのでしょうか?

ここでお客様のことをじっくりと考えてあげられない無責任なオーナーがあっさりと値下げしてしまうんですね。もうお気付きだと思いますが、あなたはお客様のことをじっくりと考えてあげましょう。

「お客様は、本当は何を求めているのか?」

美容室に来られていたあるお客様にお伺いしたところ、次のようなお話をいただきました。
・もっときれいに健康的でありたい
・年齢を重ねた今の姿よりもっと若返りたい
・明るい服を着てお出かけしたい

美容室に来られたお客様から出た言葉から分かるように
「こんなデザインにカットしてほしい」
「カラーのトーンはこれくらいがいい」
「パーマのウェーブをこんな感じにしたい」
という表面的な欲求を持っているわけではないのです。

ですから、あなたはもっとお客様に
・きれいに健康的になれること
・エイジングケアで若返ること
・気分が高揚して積極的になれること
これらをアピールしなければいけません。

これが他店との差別化であり、お客様がお金を払ってでも満たしたい欲求なのです。そのためにも何度も繰り返すようですが「本当は何を求めているのか?」をあなたは一生懸命に理解するように努力しなければいけないのです。

集団自殺とお客様心理

数年前のある日、アメリカのカルト教団で教祖と信者が集団自殺をするというおぞましい事件が起きました。たったひとりの教祖が何十人という信者を道ずれにして心中を図ったのです。もちろん信者は教祖の言葉を信じて自らすすんで命を絶ちました。

このニュースを見た人々の間には
「信者は洗脳されていたのか?」
「そんな教祖を信じたヤツがバカなんだ」
「教祖に命を捧げる心理なんて理解できない」
などの様々な反響を呼びました。

あなたは誰のためなら死ねますか?いや、死を選ぶという選択肢はありません。どんなに大切な人に「一緒に死のう」と持ちかけられたとしても、あなたは全身全霊を傾けてその人に生きる道を与えることでしょう。

ではなぜこのカルト教団の信者たちは疑いもせず教祖に命を捧げたのでしょうか?
洗脳?もしくは教祖による大量殺人?

実はこの話には続きがあります。

生存者がいたんです。この信者は教祖と一緒に自殺を図ったのですが幸運にも一命を取り留めたのです。生き残ってしまったことはこの信者にとって最悪の結果なのでしょうが、いずれにしてもこの信者は世間から注目を集めることになりました。

世間の人々がこの信者に聞いてみたかったことはただひとつ。

「なぜあなたは教祖のために死ねると思ったのか?」

彼は静かにこう答えました。

「唯一、教祖様だけが涙を流しながら私の話を聞いてくださり、
 誰よりも私のことを理解してくれました・・・」

人は誰でも完全に理解してもらえたと実感できたとき、まるで自分が母親に抱かれた赤子に戻ったように幸福感が溢れ出し、さらに父親の大きな手のひらから伝わるぬくもりに守られているような絶対的な安心感を得ることができるのです。

深い眠りの中へ滑り込むように、無防備になり、恐れもなく、悲しみもなく、不安もなく、ただただ大きく包まれるような恍惚とした幸せに浸ることができるのです。

もし自分のことを完全に理解してくれる人がいて、そのようなかけがえのない幸福を与えてくれるとしたら、その人のためにすべてを捧げても構わないとさえ感じてしまうでしょう。

あなたはお客様のことを理解していますか?

お客様に理解していることを伝えていますか?

お客様が本当は何を求めているのかを理解して、どんな欲求を満たしたいのかを理解して、どう在りたいのかを理解しましょう。99%の理解では足りません。100%の理解を目指しましょう。

「この人なら分かってくれる」

お客様にそう感じてもらえたなら、それは誰にも真似できないあなただけの価値となります。しかもそれはお客様にとってかけがえのない、とてつもなく高い価値です。

冗談ですが、そのお客様の家族が「あの美容室にだけは行かないでくれ」と片足にしがみついて泣きながらお願いしても、このお客様はその重い足を振り払って鼻息荒くあなたの元にやってくるでしょう。何度でも何度でも。

ではどうすればお客様から熱心に求められる『理解力』を身に付けることができるのでしょうか?

脳ミソから1滴の水分も出なくなるほど知恵を絞りだしてみてください。
今日も明日もあさっても・・・私も一緒に考えましょう。

ただ、今あなたにお伝えできることが1つだけあります。

人は知らないモノに価値を感じない

つまりあなたがマニアックなギタリストでない限り「フロイドローズのサスティンブロック」に2万6800円も支払うなんてあり得ないということです。

または、あなたがコーヒー通でない限り「象のフンから拾い集めたコーヒー豆1キロ」に8万円以上も支払うなんてあり得ないということです。

価値があることを知っているからこそ、お客様はそれを求めて高額な金銭を支払うのです。あなたがいくらお客様に最高の結果を提供できるとしても、それがお客様にちゃんと伝わっていなければ価値がないことと同じです。

そしてそれは未来も同じこと。

お客様は鏡に映る自分の姿に満足しているわけではありません。カットやカラーやパーマが素晴らしくて、思い通りのデザインになったからうれしいのではないのです。

シワやシミが目立たなくなって髪にツヤとボリュームが戻り、目の前に開かれた雑誌のモデルさんのような自分の姿に満足しているのではなく、

きれいで健康的で若々しい自分が、
積極的に明るく生きていける『これからの日々

に幸せを感じているのです。

人は知らないものに価値を感じません。ですから、お客様を理解し、幸せな日々が訪れることをお伝えし、未来を知っていただき、お客様と共に分かち合うのです。

いいですか?お客様を理解する覚悟はできたでしょうか?

理解』とはこの地上における究極のスキルですが、簡単には手に入りません。
ですから私と一緒に考えていきましょう・・・今日も明日もあさっても。